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ポンドの行方 19年12月英総選挙とMPC 編
更新日 2019年12月28日

国際決済銀行(BIS)調査によると、2019年度の国・地域別外国為替取引高シェアは、43.1%を占めたイギリスが圧倒的1位であった。同国は今日でも、世界の為替取引の中心である。

そして、イギリス通貨ポンドは、流通量に比べ取引が活発であるため、ポンドペアは、ポンドを含まない主要通貨ペアよりボラティリティが高い。「取引時の損失可能性額見積もりと分かりにくい相場では取引しない」という2点が、ポンドペアを制する最低条件だ。

ポンド・円相場は、ポンド・米ドルと米ドル・円の組み合わせによるクロスレートで算出される。米ドルとこれに連動する事が多いポンドの2通貨で値動きが増幅されるため、ポンド・円は、特にボラティリティが高い。

さらに、2019年も、欧州連合(European Union、EU)からのイギリス離脱を意味するブレグジット(Brexit)ニュースが市場を揺さぶり、ポンド波乱の年となった。

長期化するブレグジット問題による議会混乱に終止符を打つため、下院議席で単独過半数に満たない第1党の保守党、ジョンソン首相は19年12月12日、総選挙を実施した。

同日午後10時(日本時間12月13日午前7時)の投票締切と同時に、現地のテレビ各局は出口調査を発表。離脱強硬派であるジョンソン首相の保守党が、50議席程度増やして過半数を大きく上回る見込みと報じる。

選挙期間中の世論調査から、保守党が過半数を獲得する事は知られていたが、50議席程度もの躍進は想定以上であった。

下のチャートは、TradingViewサイトのポンド・円30分足キャプチャー画像で、日本時間の12月12日17時から12月21日7時までの期間になる。

GBPJPY 12月12日〜21日チャート

ポンド・円チャートによると、日本時間12月13日7時の安値は143.863円、英総選挙出口調査公表と同時にポンドが急上昇し、7時46分には147.912円を記録する。46分間で4,000ポイント以上の変動だ。

その後、ポンドの調整売りとなり、12月17日には、EU離脱(20年1月31日)後の移行期限である20年12月末の延長を、ジョンソン首相が阻止するとの報道が流れる。離脱後11ヶ月の移行期間中、イギリスはEU加盟同等とみなされるが、この限られた期間にEUとの貿易協定を締結できなければ、「合意なき離脱」に至ってしまう。

選挙前は、政治家の意見がまとまらずに「合意なき離脱」となるリスクがあったのに対し、選挙後は、ジョンソン首相の強硬政策により「合意なき離脱」となるリスクが浮上したのだ。ポンド・円相場は12月17日、ポンドの売りが加速、この日だけで約2,000ポイント下落した。

イギリスの中央銀行であるイングランド銀行の金融政策委員会(Monetary Policy Committee、MPC)は、12月19日正午(日本時間12月19日21時)、政策金利を据え置くとの発表をした。これは事前の予想通りだったが、第4四半期GDP見通しを下方修正した事でポンドの下落が進んだ。

次のチャートは、TradingViewサイトのポンド・円1分足キャプチャー画像で、日本時間の12月19日夜になる。

GBPJPY 12月19日チャート

注目すべきは、21時を挟んだ値動きだ。ポンドは、金利発表直前の20時59分に142.877円まで急落、21時になった途端に上昇し始め、21時4分には143.764円を記録する。しかし、「合意なき離脱」やMPCのネガティブな景気見通しといった懸念要因に押され下落していく。

この様に、ポンドは不安定になってくると、短時間での大きな振幅も発生するので、上述の「取引時の損失可能性額見積もりと分かりにくい相場では取引しない」を徹底したい。

今回は、MPCの政策金利発表だけでも重要イベントだったが、これを上回る英総選挙が超重要イベントとして、MPCの影響を打ち消してしまったケースである。

日本時間の12月13日7時に急騰し、同日11時14分には147.954円を記録したポンドは、結局、「合意なき離脱」リスク浮上で下げ幅を拡大させていき、12月23日22時35分には141.161円を記録。10日間で約6,800ポイントの下落幅を示す事になった。

「合意なき離脱」になれば、EUにとってもダメージが大きいため、英とEUの双方は貿易協定成立のために最大限努力するだろう。

ポンド取引には多くのイギリス人が参加する。EU離脱後の移行期間内に、自分の国が貿易協定を締結できると楽観視している英国投資家が多いようだ。日本時間の12月28日7時のポンド・円相場で、ポンドは143.203円まで回復している。

2020年は、イギリスの通商政策に期待したい。

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